上島Stories

Kamijima stories

上島の遺跡⑬ 海の祭祀遺跡

2019年06月01日 有馬 啓介

大木遺跡で採集された遺物

 弓削島の南東に位置する魚島群島は、高井神島、魚島、江ノ島等で構成され、急峻な地形の島々は、遠くからもよく分かります。高井神島とその北に位置する豊島の間は、現在の瀬戸内海の海上交通の大動脈であり、大型船舶が航行しています。

 魚島の大木遺跡は、古墳時代の瀬戸内海の海上交通を考える上で、重要な遺跡です。大木遺跡は、篠塚集落と大木集落を分ける小丘陵の西側、眼下に海を望む海抜10メートルほどの緩傾斜面上で昭和43年に発見されました。多くの遺物が発見されましたが、その大半は表面採集されたものです。現在の大木集会所の山側に遺跡が所在すると考えられますが、遺構の所在や規模等は不明であり、地崩れとともに遺物が斜面に流れ出た可能性があります。

 大木遺跡では、鏡や勾玉を模した石製模造品、鉄鋌と呼ばれる鉄の延べ板、剣形鉄製品、鉄鏃、小型青銅鏡、コップ形製塩土器等が出土しました。この遺跡は、古墳時代中期後半、すなわち5世紀代後半の海上交通に関わる祭祀遺跡であると考えられています。

 古墳時代になると、瀬戸内海の海上交通は盛んとなり、これまでの瀬戸内海沿岸に沿った航路だけでなく、魚島群島に沿った航路のように沿岸から遠く離れた航路も発達しました。大木遺跡は、海を見下ろす高台に位置していたと考えられ、通常の集落では見られない祭祀性の高い遺物が出土しています。魚島群島は、瀬戸内海の中央部にある燧灘に位置し、東西交通の中継地として航海に従事する人々にとって重要な役割を果たしていたと考えられます。今後、大木遺跡のような航海の安全を祈る祭祀遺跡は、高井神島や江ノ島でも発見されるかもしれません。

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