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上島の遺跡⑥ 遺物実測に魂を込める

2018年03月28日 有馬 啓介

土器、実測図、トレース図

 佐島にある上島町教育委員会には、文化財を整理するための部屋があります。近頃は、朝から文化財整理室と呼んでいるその部屋に入り、一心不乱に「魂を込めた作業」をしています。
 ヨーロッパの考古学研究方法を取り入れ、後に京都帝国大学総長を務め、日本考古学の父といわれる濱田耕作は、著書『通論考古学』の中で、「考古学は過去の人類の物質的遺物を資料として人類の過去を研究する学問」と述べました。つまり、考古学は、遺跡・遺構・遺物によって過去の歴史を再構築する学問なのです。そのため、遺跡・遺構・遺物から様々な情報を抽出する必要があります。遺物は無口です。こちらがあらゆる努力をしないと、何者であるのかを話してくれません。つまり、考古学を志す者は、徹底的な遺物観察によって、それに残された製作・使用にかかわる痕跡を見つけ出すことが求められます。それによって遺物は生き生きとした貴重な考古資料となるのです。考古学的な価値を見出すことができなければ、土器は単なる焼けた土の塊、石器は単なる石のかけらでしかありません。
 遺物観察後は、遺物の大きさを計測しながら鉛筆で実測図を描きます。実測図には、遺物観察によって得られた様々な情報も書き込みます。そして、手書きの実測図をコンピューターに取り込み、トレース図を作成します。製図用のペンや丸ペンを使用し、手描きでトレース(墨入れ)することもあります。トレースは、遺物実測図を印刷物に掲載するために必要な作業です。
 遺物観察と実測は、大変地道な作業ですが、遺跡を理解するための第一歩といえます。今日も文化財整理室で図面作成に魂を込めています。

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