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上島の遺跡⑤ 遠くに見える石器石材の原産地

2018年01月29日 有馬 啓介

空久保遺跡採集のサヌカイト 積善山の南麓、標高70 ~ 80mの丘陵上に位置する空久保遺跡では、サヌカイト製の石鏃や多くの剥片が採集されています。

 冬の空気の澄んだ晴れた日に小高い丘の上に立つと、夏にはあまり見られなかった遠くの景色が目の前に広がっています。私の郷里は、山口県の宇部ですが、そのような日は、周防灘を隔てて九州が大変近くにあるように感じます。私の父親が小学生の頃は、「豊後富士が見える」と言って、遠くに見える九州に心が躍っていたようです。豊後富士(由布岳)の北東には国東半島が広がり、さらにその北の海には姫島が浮かんでいます。

 姫島は、現在の面積が7㎢ほどの小さな島ですが、旧石器時代から弥生時代にかけての黒曜石製石器の石材原産地として知られています。姫島の観音崎一帯は、「姫島の黒曜石産地」として国の天然記念物に指定されています。灰黒色もしくは乳白色を呈する特徴ある黒曜石ですが、山口県で遺跡の発掘調査に従事していた頃は、よく目にした石材でした。

 四国の代表的な石器石材としてサヌカイトが挙げられます。そのサヌカイトの原産地として、香川県坂出市の金山や、坂出市と高松市の境に位置する五色台が知られています。サヌカイトは、安山岩の一種で灰黒色もしくは黒色の硬質で緻密な岩石であり、叩くと金属音を発することからカンカン石とも呼ばれています。サヌカイトは、中四国地方では旧石器時代以降に最も普遍的に流通した石器石材です。上島町内で出土したナイフ形石器やスクレイパー、石鏃等の石器石材の多くには、このサヌカイトが利用されています。

 香川県の金山や五色台は、上島町から直線距離で70㎞ほど離れた場所にあります。人間にとって欠かすことのできない資源においては、古くからシステマチックな流通形態が確立されていた可能性があります。

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